総連中央会館売買は「完全に合法」 代理人を務めた土屋公献弁護士に聞く
「競売逃れのための架空売買」「詐欺事件」と報道されている朝鮮総連中央会館の売買契約問題。安倍政権による朝鮮総連に対する理不尽な弾圧が日増しにエスカレートするなか、マスコミによるミスリードが継続されている。RCCとの交渉と中央会館売買の件で総連側の代理人を務めた元日弁連会長の土屋公献弁護士に話を聞いた。
土屋公献弁護士
代理人を引き受けた経緯
今から5年ほど前、面識のあった床井茂弁護士が総連の人とともに来て、債務の確認と返済に関する朝銀東京の破産管財人との交渉の代理人を依頼されたのがきっかけだ。
私は、これは大事なことだと思ったので、その依頼を受けた。その後2~3年にわたってRCC側も交えて互いに債務を確認しあう作業を進めた。総連の方も率直に「他人の名義の債務であっても総連中央が負うべきものは認める」と誠実に応じた結果、最終的な債務総額が決まった。
627億円という債務総額が出た段階で、RCCとの間でその弁済方法についての交渉に入った。交渉過程では、総連側の経済的実情には限りがあり、全額の返済には応じきれない、ついては627億円すべてではなく、可能な範囲での上限を設けたうえで返していきたい旨を伝えた。上限が設けられなければ弁済しようがない。
しかし上限はついに示されなかった。総連側は分割弁済をしていく姿勢を示したが、利息だけでも年に31億ということでは、永久に完済は不可能な話だ。
そのうち、RCC側の代理人を務める弁護士が交代し、訴訟が起こされた。私と床井弁護士が訴訟代理人となった。
私の事務所の弁護士はまったく関係ないのだが、委任状に私の事務所の弁護士の名前が印刷されているため、形式的には私の事務所の弁護士も代理人となっているが、実際には私と床井弁護士の2人だけが代理人である。
RCCとの交渉過程
債務自体については争うことは何もなかったが、弁済については不可能なことは実行できない。可能な限り最大限の努力をして支払うので、その線を引いてほしいと約1年間にわたって和解交渉を行った。交渉する過程でも明らかなように、「RCCは絶対に譲らない。総連がいくら誠意を示しても無理だろう」というのが一般的な見方だった。
しかし、裁判所が間に入っているので、裁判所の協力を得ながら最大限の努力をした。これが一般の企業であれば、破産したらそれまでだ。RCCがいくら回収しようとしてもできない。総連だけが一般企業と別扱いされては困る。仮に総連中央本部の財産をすべて投げ出したとしても40億円にも満たないだろう。8年間かけて5億円ずつ、計40億円をまず支払い、さらに4年間かけて30億、計70億円を支払い、その段階で残りの債務についてもあらためて話し合おうという最終提案を示した。その時には国際情勢や日朝関係など内外の情勢も変わるだろうし、情勢が変われば、別の解決方法も見つかるだろうと判断したからだ。
このような申し入れをしたがRCC側は認めず、3年間で5億円ずつ支払い4年目に残りの債務と利息をすべて支払えという和解案を示した。これでは3年間はいいとしても4年目にはまちがいなく強制執行されるのは明らかであり、当方が受け入れなかったことで双方の主張が平行線をたどり、今年の2月に和解交渉は決裂した。
売買契約の合法性
判決が下った時点で何もしなければ、まちがいなく競売にかけられてしまい、総連の拠点である土地、建物を失うことになる。そこを拠点として在日朝鮮人の生活と権利を守るための活動をしてきたのに、その拠点を失えば在日の人々にとって大きな打撃となる。また、実質的には大使館、領事館と同じ役割を長年にわたって果たしてきた拠点を失わせることはできず、これを救うには、一度、第三者に売却するしかない。これは唯一の合法的な方法で、誰もが思いつく。
そしてその売却代金が競売代金より多ければ何の問題もない。競売にかけても20億円、よくても30億円だろう。なぜなら、あの建物自体は総連の活動の目的には沿うものだが、一般の商社などが買い取ったところで構造上、役に立たないからだ。そうすると、建物を壊すだけで何億円もの費用がかかり、その分更地よりも安くなるからだ。
第三者に30億円、もしくは35億円で売却しその売却額をすべてRCCに提供すれば競売ができなくなる。こうすることで総連も当面は立ち退かずに済む。しかし、買主に売りっぱなしでは困るので、5年ないし6年間は使わせてもらい、その間は家賃に相当する損害金を支払う。
こうした事情を十分理解して買ってくれる候補者を探してほしいと今年の2月頃、総連側に提案した。しかしそのような人物を公然と募集すれば、すぐにRCC側の耳に入ってしまい、妨害されては困るので、秘密裏に、限られた範囲で理解者を探した。
3月下旬頃になって、総連側から満井さんという人を紹介された。総連東京都本部の土地を売る際も世話になったそうで、家主、地主の全国組織の理事長を務めているということだった。
その満井さんが緒方弁護士を紹介してくれた。
満井さんが言うには、自分のファンドから金を出すのはたやすいが、自分が買主になるわけにはいかないし、第三者の名義を借りたとしても資金の出所を追及されても困るということで、公安調査庁長官や広島高検検事長などを務めた緒方弁護士を紹介してくれた。
緒方弁護士が公安調査庁長官を務めていたことは知っていたが、面識はあまりなかった。緒方弁護士が代表を務めるハーベスト投資顧問株式会社が買主になれば、どこに対しても案ずることはないと思った。
緒方弁護士自身も、かつては総連を敵に回していたが、10年にわたって弁護士活動をする過程で総連に対する理解を深めたことや、彼自身が中国からの引揚者で、在日の人々が祖国に対する愛着を抱いていることにとても理解を示していた。総連中央本部が使用する土地、建物についても、在日の人々にとってなくてはならないものであり、これが競売されてしまったら日朝国交正常化にも大きな支障をきたすという考えを持っており、すぐに意気投合した。そして、二人で売買に関する条件を詰めながら契約書を作成していった。
資金については、満井さんが中心となって出資者を探した。売買契約に関しては当初、5年間使用したあと買い戻すため再売買の予約をして再売買予約登記をすることが絶対条件だった。しかし、先方の意見は、架空売買のように見えるので、再売買するということをあまり全面に出してほしくないとのことだった。こちら側としては、相手側を信頼して契約書には記しても登記簿上は再売買予約は遠慮しようということになった。
こうした経過をたどって買主側の意向に沿った形での契約書を作成し、35億円で売り渡すということで調印した。また、代金については登記簿謄本で所有権が移っていることを確認したうえで支払うということでも時間が迫っているので、やむなく合意した。緒方弁護士が控えている以上、こちらとしては信頼するしかなかった。
代金の支払いが遅れているうちに新聞にリークされ、「架空売買」「強制執行逃れ」など報道が蔓延したことで契約は破たんしたが、こちら側としては誠意を持って契約に臨んだので、失敗に終わったからといってやましいところは何もない。
メディアでは当初、強制執行妨害罪とか、公正証書原本不実記載罪などと総連を非難していたが、このような罪名は消えた。しかし、今度は買主側の詐欺であると刑事事件としての構成を変えて総連が被害者で買主が加害者ということになった。
しかし、総連側としては緒方弁護士に騙されたという意識はないだろう。仮に詐欺だとしたら、手段としてはあまりにも幼稚ですぐにばれるようなもので、緒方弁護士がこのような形で晩節を汚すとはとても解せないからだ。
今回の売買契約に関して言えば、完全に合法的なもので、法律には決して抵触しない。
私はこれまで、自分と考えの違う人の弁護でも差支えがないかぎりは引き受けてきた。とくに刑事事件では被疑者、被告人の権利を徹底的に守るのが弁護士の職務で、それができないようなら弁護士は務まらないと思っている。
今回の件に関しては、総連と在日朝鮮人に対する日本人の無理解と偏見からいろいろなことを言われるかもしれないが、そんなことはまったく気にしていない。とくに、在日朝鮮人についての歴史的由来を知る以上、日本の弁護士として喜んで引き受けるべき仕事だと思った。(まとめ=李松鶴記者)
[朝鮮新報 2007.7.30]